【読書感想】気がつけば騎手の女房

気がつけば騎手の女房 (集英社文庫)

これも、中古本屋で100円で手に入れた本。一応、大宅賞受賞のスポーツ・ノンフィクションってことになるし、吉永みち子のこの作品は前々から気になっていた。

物語は学生運動が盛んな大学時代からはじまる。吉永みち子は東京外国語大学のインドネシア語学科卒(光浦靖子もインドネシア語学科だから先輩ってことになるね。)学生運動が盛んな時期に、学生だった世代の作家は、他に沢木耕太郎くらいしかしらないんだけれど、彼と同様に”ミチコ”は学生運動に対して冷めていたみたい。逆にそんな学校がいやになっているところに、競馬サークルの男どもの話す馬の話に興味をもち、初の競馬場へ。少々気が強くて、男勝り。サバサバしていてガサツなところのある”ミチコ”は、その後どんどん競馬にのめり込んでゆく。
そしてついに、”女性初”の競馬記者に。男の職場である競馬界に、負けん気の強いミチコは果敢に挑んでゆき、周囲からも認められてゆく。けれども、仕事として馬を見て、仕事として馬を評することに、かつてと同じような情熱をもてなくなっていることに気づくミチコ。そんな折、取材で出会った子持ちやもめの吉永騎手に少しづつ惹かれてゆく。そして、気かつけば騎手の女房になっていたという話しです。

中盤、吉永騎手と出会ってからは、恋愛物にもなっており、ミチコが吉永騎手の人柄に惹かれていく様子が実によく描かれている。女性にすすめたいスポーツ・ノンフィクションを挙げよって言われたらこれを挙げるかも。とくにアスリートじゃなく、観客席にいることが多いスポーツ好きな女性にはこれを勧める。野球選手やサッカー選手の妻にありがちな、”主婦のカリスマ”的、勝ち組のセレブ臭がまったく感じられないので、所謂”妻もの”ドラマの中でも非常に好感が持てる。とくに、ミチコが寝込んでいるときに、吉永騎手がしてくれたことは、女の子だったらキュンとくるのではないだろうか。そのシーン、僕の頭の中には”SAY YES”のイントロが流れました。だって101回目のプロポーズ的なんだもん(笑)。

しかし、この物語(っていてもノンフィクションだけど)のパターンどっかで似たようなものを見た記憶が。そう、これってNHKの朝の連続テレビ小説っぽいってことなんだ!NHKの朝の連続テレビ小説っていうのは、だいたい女性の半生を描いているものが多く、今の現代物に移行する前は、明治、大正、昭和初期を懸命に生きた女性の姿を描いたテレビ小説だったんだよね。だいたい、主人公は男勝りで勝ち気な女の子。そんな女性が時代の変化の中で”女性初の”職業につく。そして、周囲に反対されつつ、だいたい子持ちやもめの男やら、御曹司やらと結婚するんだよね。
女性パイロットを描いた『雲のじゅうたん』、女性アナウンサーの『本日も晴天なり』女性新聞記者の『はね駒』雑誌記者の『ノンちゃんの夢』など、女性が男性社会の中で奮闘してゆくものが多い。『おしん』や『あぐり』では髪結いが、『マー姉ちゃん』ではマンガ家が描かれていたし、その多くは実在のモデルがいたり、本人が書いた自伝が原作だったりする。女性初の競馬記者になったミチコさんの物語は、朝の連続テレビ小説にピッタリの物語。なのに、なんでNHKはこの物語を原作に朝ドラにしないのだろう。タイトルは『ミッちゃんの万馬券』とかで(笑)。

そんな吉永さんですが、実は吉永騎手とは彼が亡くなる少し前に離婚されています。でも、この離婚は、昔の友達みたいな関係にもどって、一緒にお酒が飲みたかったらみたいなことらしく、嫌いで別れたんではないそうです。今も夫の姓を名乗っているのは批判もあるのだろうけれど、この物語を読むと、彼女にとって吉永騎手が今でも大事な人なんだっていうことはよく分かります。ぜひ一読を。

2010/01/24

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